フットボール。今やその人気は世界規模だ。そんな広い世界に、日系のクラブチームはそう多くはない。だがカンボジア、世界遺産アンコールワットがあるシェムリアップに2つの日系チームが存在する。アンコールタイガーとソルティーロアンコールだ。

 

今回は9月21日に開催されるシェムリアップダービーに向けて、両チームで活躍する2人の日本人選手。アンコールタイガーのMF、杉山丈一郎選手とソルティーロアンコールで同じくMFとしてプレーする木暮郁哉選手に特別インタビューを実施した。

 

ひとたびボールを持てばテクニカルなプレーで観客を魅了しスタジアムを沸かす2人の男がダービーを、そしてサッカー人生を語る。

 

「外国人選手」としての立場

―リーグ戦も残り4試合です。まずは今シーズンの個人のパフォーマンスとクラブの成績について振り返ってください。

ソルティーロは繋ぐサッカーを目指すものの、現時点では14チーム中10位。しかしそれでも木暮選手は手応えを感じている。

木暮

「僕は今シーズンからカンボジアリーグにやってきて、正直最初はカンボジアのサッカーの環境に戸惑った部分もあったんですけど、選手全員のポテンシャルも感じていました。実際にクメール人の選手やサポーターにも『サッカーって楽しいんだよ』っていうところは見せれていると思っています。でも、チーム順位も個人のパフォーマンスにも全然満足していないので、もっと自分やチームの良さを出していきたいですね。」

 

―杉山選手はどうですか?

対してタイガーは、今季加入の外国人2ストライカーを中心としたサッカーで4位につける。杉山選手もここまで14アシストとリーグトップの数字を出している。

杉山

「僕は昨シーズンの途中にカンボジアに来て、そのまま今シーズン引き続きやっています。昨シーズンは僕が点を獲れるシーンが結構多かったのですが、今シーズンはさらに高さのある外国人ストライカーが2人加入して、チームとしては去年より良い結果を出せていると思っています。(今季加入した)2ストライカー中心のサッカーなので自分がセカンドチョイスに回ることが多いのですが、ベンチスタートが多い中でもコンスタントに良いパフォーマンスは出せていると思っています。」

 

―杉山選手と木暮選手はプライべートで連絡を取ったり、会ったりはするのですか?

木暮

「まあ、ご飯というか…」

杉山

「シェムリアップって狭いから。(笑)」

木暮

「時々ですけど、一緒にご飯に行ったりとかはあるし、日本にいるときから彼のことは知っていて一緒にサッカーしたこともあったので、(カンボジアに来る前から)元々知っていました。」

 

―そうなんですね!どういった繋がりで…?

木暮

「日本でオフの期間にサッカーをするコミュニティがあって、そこで一緒に何回かプレーしたことがあって…という感じで。全然前から面識はあったんです。」

 

―では、仲は良い方ですか?(笑)

木暮

「まあ、普通です。(笑)」

 

―杉山選手と木暮選手以外で、タイガーとソルティーロの選手の仲はどうなのですか?

木暮

「正直みんな仲は良いですね。サッカーとなれば別かもしれないですけど、グラウンド離れたら、同じ志を持っているというか、同じ境遇なので。チームの垣根は全然ないですね。」

杉山

「ピッチ上では戦わないといけないけど、ピッチから離れたら同じスポーツ選手としてお互いモチベーションを上げられる関係が出来ていると思う。」

木暮

「カンボジアに限るっていうわけではなくて、東南アジアで外国人枠選手としてやっているというのは言ったら同志なわけで、だからお互い分かり合える部分があると思う。」

 

―お2人とも自身が「外国人助っ人」として何か意識することはありますか?

杉山

「ローカルの選手と比べてサッカーの能力はもちろんだし、チームを引っ張っていける、(ローカルの選手の)手本になれるようにトレーニングに取り組む姿勢とかは意識しています。周りの人たちに認められるには、結果を出すことが一番手っ取り早い。でも結果だけじゃ本当の意味で自分についてくる人はいないから。結果と姿勢、両方を意識しています。」

 

―ローカルの選手の成長を感じることはありますか?

杉山

「タイガーのローカルの選手は真面目だから練習も一生懸命やるし、昨シーズンと比べても去年から一緒にプレーしている選手の成長は感じる。俺もそれ以上に成長しないといけない。」

―木暮選手はどう考えていますか?

木暮

「そうですね。もちろんプロとして生き残っていくためには結果を出すことが最終目標になると思いますけど、でもサッカーをやる上で1人でプレーすることは出来ませんし、自分が結果を出すってなったら必然と周りも自分も全体としてレベルアップしないと、自分も成長しないと思っているので。もちろん自分が成長するのは当たり前のことであって、プラスでローカルの選手も含めてみんな成長出来れば自分の所にも結果がついてくるのかな、という風に僕は思っています。」

 

―杉山選手はローカルの選手の成長を感じているとのことでしたが…。

木暮

「正直最初は、ウチのチームは本当に若いので、まだ基礎的なことも出来ていなかったですね。でも、本当に地道ですけど間違いなく1試合1試合良くなってきています。だけど、タイガーと違って結果が出ていないので、その辺は僕たち外国人選手が『勝たせてあげられてない』っていうのは、申し訳ないです。」

 

 

「終わり」と向き合って、今がある

―では、お互いのサッカー選手としての印象はどうですか?

杉山

「郁哉くんはJリーグもカンボジア以外の国も、それにアンダーの代表も経験していて…キャリア的にもエリートみたいな感じですね。それでカンボジアに来て、志をもってプレーしているのは凄い尊敬できます。」

木暮

「あざーっす!(笑)」

―(笑)では、プレーに関してはどうですか?

杉山

「郁哉くんはプレースタイル的にはテクニックのある選手ですね。僕もテクニックを活かすタイプの選手ですが、そういう選手ってグラウンドの状態とか周りの選手のポジショニングが悪いと活きないプレーヤーだと思うので…そういう面では苦労しているのかなって感じています。でもキックとボールタッチは他の選手と比べて(クオリティが)『違うな』と思っています。」

 

―木暮選手はどうですか?

木暮

「ジョー(杉山選手)にはドリブルっていう武器があって、そういう(テクニカルな)プレーが通用するっていうのをローカルの選手に見せてあげることって、凄く彼らのためになっていると思う。サッカーに対する姿勢とかも凄くストイックですし、そこはもう僕も見習わなきゃなと思うくらいなので。大変な状況の中でも自分の良さとか特徴を出そうとしている姿勢は一サッカー選手として凄く大事だと思うので、それを体現しているのは凄いと思います。」

 

―やはり、決して恵まれているとは言えないホームスタジアムのピッチ環境の中で、テクニックを活かす選手同士で通じ合うところはありますか?

杉山

「本当に上手い選手はグラウンドが悪くても普通にプレー出来ちゃう。僕も本来のプレースピードよりは遅くなるけど、自分で微調整したら最初よりはプレーの精度は上げることが出来ましたし。(カンボジアは)プレー環境がどこでも同じじゃないから、適応力は身についたかな。環境に言い訳していたらダメ。結局相手も環境は一緒ですし。」

 

―それでは、お互いのクラブにはどういうイメージを持っていますか?

木暮

「シンプルにお客さんがあれだけ来てて(※今季タイガーは「カンボジアリーグで一番ファンが多いクラブ」に選出された昨季の平均観客動員記録を更新中)、プレーヤーとしては色んな人に観てもらうってことは本当に自分にモチベーションになるので、羨ましいなっていう目では見ていますね。サッカーで言うと、やることがシンプルっていうか、みんなが同じ方向を向けているので、やっぱりその辺が今の順位を保っている理由なのかなと。」

杉山

「日本人が多いというのもあると思うんですけど、しっかりCBからボールを繋げる、日本人の特徴を活かしたサッカーをしていますね。カンボジアの環境でそういうサッカーは難しいと思うけど、それでも自分たちのスタイルを貫いて最後まで戦っているのはソルティーロの強みだと思う。」

 

―ここまで一通り話していただきましたが、杉山選手と木暮選手は引退の瀬戸際を経てカンボジアでプレーしているという共通点があります。お2人にとって今タイガーで、ソルティーロでプレーする時間はどんな時間ですか?

杉山

「大学を卒業してドイツに行くときは大体2,3年間を目安にチャレンジして、その間に自分の目指すところまでいけなかったらサッカーを辞めて日本に帰るっていうイメージを持っていました。2シーズン半プレーして個人的には『悪くないな』って思っていたけど、上のカテゴリーには結局行けなかった。だから帰国とか引退も考えていて、丁度そのタイミングで今のオーナーからオファー貰って…それが無かったら多分サッカー辞めていたかもしれないです。」

高校時代は市立船橋で冬の高校サッカー(2012)の優勝を経験。その後大学を経てドイツ6部へ挑戦したが、ステップアップは叶わず。しかし今はサッカーをプレーできる喜びを感じている

 

「一回もカンボジアに行ったことなかったから、発展途上のイメージしかなくて『そんな国でプレー出来るのか?』って思ってたけど。3カ月っていう条件でオファーを貰って、『3カ月なら…とりあえずもう一回(自分を)奮い立たせよう』って決めた。それからドイツから帰国して、1週間で準備して火曜日くらいにカンボジアに着いて週末の公式戦に出ました。(笑)でも、去年11試合出て割と良い結果残して、契約更新もしてもらって、今年はカンボジアリーグも盛り上がって…自分の中ではサッカーに対する熱はカムバックして、またやれる限り続けたいなって思っています。サッカーを辞めかけたけど、今はサッカーを出来る喜びを噛みしめながら、一試合一試合プレーしています。」

 

木暮

「日本でやっていてクビになってサッカーする場所が無いってなったときに、シンガポールのクラブの社長から声をかけてもらって。当初は日本での今までの自分の経験だったりキャリアっていうのを一回捨てて、もう一回一からやり直そうという気持ちで海外に来たので、そこで運が良く1年目で結果が出ました。自分は『縁』でここまで来れたと思いますね。カンボジアに来るってなった時もシンガポールで一緒にプレーしてた選手が監督っていうことで、その縁があってこのチームに来ているので。だから今自分がサッカーしている理由は恩返しというか、応援してくれている人たちがいてくれるから僕は頑張れています。自分一人だと僕は弱いので。ソルティーロを応援してくれているサポーターっていうのは僕にとっては大きい存在です。」

J1でプレーし、U-19日本代表にも選出された。しかしJリーグには定着できず、心機一転シンガポールへ。カンボジアでは応援してくれている人たちの想いと共にプレーしている。

「心の底から応援してくれる人たちの想いは凄く感じています。もちろん日本で応援してくれている人もいるんですけど、本当に応援しようと思ってスタジアムにお金を払って観に来ていただいている人たちの想いをのせてプレーしたいっていうのは、常日頃思っています。海外へ出たときに、本当に毎日毎日自分が一生懸命サッカーに対して本気で向き合えるかっていうのを常に続けていって今があるので…、毎試合この試合が本当に自分の人生最後の試合だなって思って、それぐらいの覚悟でプレーするようにしています。」

 

―お2人とも試合1試合に対する思い入れが強いように思います。

木暮

「多分僕らは1回『辞めるかもしれない』っていう境地に至って、でも結局やっぱり『サッカー好きじゃん』ってなってやっているので、一回そういうところを見た選手はたぶん、やっぱり自分の好きなモノはサッカーってなっていると思います。だから同じような気持ちが芽生えるのかなって思いますね。」

杉山

「最初ドイツへ行ったときは、『ドイツで何年もずっとプレー出来ればいいかな』ぐらいに考えてた。ドイツでプレーして、ちょっとずつでもステップアップ出来れば…って。でも、やっているうちに(選手としての)終わりが見えてきた。やっぱりサッカー選手はいつまでも続けられないことだし、下手したらケガをして出来なくなっちゃうかもしれない。お客さんがいる中で楽しんでプレー出来ること…それがどれだけ幸せか…その幸せを噛みしめながら毎試合プレーすることを意識しています。」

 

 

お互いのプライドとダービーの可能性を信じて

―次の話題はシェムリアップダービーについてです。ダービーマッチはお2人にとってどのような試合ですか?

木暮

「負けられない戦いです。それはもう。(笑)」

杉山

「同じシェムリアップ、町自体も小さいし、しかも2クラブしかない。これはもう本当に負けられないです。しかも日本人選手も所属しているし、サポーターもお互い日本人いるし、スタッフにも日本人いるし…カンボジアっていう地で日系ダービーって凄いことだと思います。」

木暮

「いや、もう本当大げさかもしれないですけど、自分たちが今までやってきたサッカーの結果が出るので、プライドを懸けた戦いというか、勝ったほうが上だし分かりやすい。」

 

―お2人にとって毎試合が重要であることは重々承知の上ですが…それでもダービーマッチは特別ですか?

杉山

「…気合はたぶん違う。俺は毎試合同じようなモチベーションで入るけど、自分で感情をコントロールしても(ソルティーロのことを)意識は絶対してる。やっぱりサッカーってどっちが勝つか分からないし、ダービーに関しては今の順位とかも全然関係ないし、直接対決ではっきり白黒を決められる。本当に面白い試合をしたいですね。日本人も楽しみにしているし。」

木暮

「そうだね。プレーヤーだけじゃなくて、他の人たちも巻き込んで、多分すごいパワーが生まれていると思うので。」

杉山

「本当に、歴史に残る試合にしていきたいですね。」

 

―木暮選手にとっても特別な試合ですか?

木暮

「いや、それはテンションアガるでしょう。(笑)アガらなきゃダメだよね選手として。まあ日本人同士で戦うことになって気合入らない奴いないと思うし、もちろんプレーヤーも含め、サポーターも全部含めている戦いだと思うので、すごい楽しみですし、負けられないですね。まあ、普段仲が悪いわけではないんですけれど、そういう部分についてはいつもバチバチだと思いますし、そういう魂の戦いみたいなものを見せられればいいなと思います。」

現時点での対戦成績はタイガーの2勝3分け。これからどのような歴史が築かれていくのか。

―前回は3-0でタイガーの勝利でした。試合後の心境はどうでしたか?

木暮

「そうですね…単純に『悔しい』の一言ですね。次の試合もあるので、そこでもう一回、僕らとしてリベンジする気持ちでやっていこうかなと思います。シンプルに悔しいというのが1番ですね。」

杉山

「やっぱりシンプルに嬉しいですね。勝負事は勝ってナンボだし、サポーターとかもたぶんサポーター同士で意識していると思うし、勝って一緒に喜べることは素晴らしいことだし、今回もしっかり勝ってサポーターと喜びたいです。」

 

―シェムリアップダービーは始まって2シーズン目です。勝負事以外でもサッカーを盛り上げるという点で大きな可能性を秘めていると思いますが、お二人はどのようなダービーにしていきたいと考えていますか?

木暮

「言ったら、僕らってカンボジアリーグだけど『日系』じゃないですか。なので、日本の価値も上がるというか、僕らがダービーを盛り上げることで、それこそ国の発展にも繋がっていくと思っていて、それに直接的に僕らが携われていることはすごく嬉しいし、サッカーだけじゃない可能性というか、それくらい重要な試合だと思います。プレーヤーとしてはいい試合を見せるっていうことが一番だと思うんですけけど、それがどんどん続いていけるように、エキサイティングな試合をしていきたいと思います。」

杉山

「規模的にはまだ、リーグ自体も小さいし、カンボジアも発展途上だし。でも、これから絶対上がっていくと思っています。だからダービーも毎年その時期になったら東南アジア、タイとかベトナムとかからも人が来ちゃうみたいな、それくらいの規模になってくれるのが理想です。何年後か分からないけど、そうなると思っているし。そのための21日。歴史は築き上げていくしかないから、その第一歩として面白い試合をしたいです。」

木暮

「いいよねこうやって、一つの街にさ、ライバルがいるのは。可能性あるよね。しかも俺らのチームもさ…タイガーもそうだけどさ、やってることって、俺らの試合見て子供たちがサッカー選手目指してくれたりとかさ、めっちゃいいことだよね。そういうところは、お互いのチームが寄り添ってやっていきたいよね。」

杉山

「2つのチームのプレーを観て、カンボジアの子供たちがサッカー選手になりたいって思ってくれるのはめちゃくちゃ嬉しいですし…」

木暮

「嬉しいよね。超うれしい」

杉山

「クオリティ求めたらヨーロッパのサッカーを観ればいい。メッシとかクリスティアーノ・ロナウドとか有名な選手がいるわけだし…。それでも、カンボジアでお金を払って俺らのプレーを観てくれる人たちがいることは…本当に素晴らしいことだと思う。スポーツはカテゴリーとかレベルとか関係なしに熱くなれる。だからダービーで選手としてプレーできることは素晴らしいし、中途半端なプレーは出来ない。」

木暮

「きっかけになってほしいよね。夢を追う。何か感じてもらえばいいね。」

 

 

シェムリアップダービーは9月21日(土)シェムリアップスタジアムで15:30(日本時間17:30)キックオフです!
ネットでのライブ配信(こちらから!)もあります!タイガーの詳しい情報はTwitterをチェック!

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